京都地方裁判所 昭和34年(わ)121号 判決 1959年6月08日
被告人 戸田昭
昭六・九・五生 無職
主文
被告人を無期懲役に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、肩書本籍地で中流農家の四男として生育し、中学校卒業後炭焼の手伝、自動車運転手、マンガン鉱の採掘等と職を転じて来たが、いずれも長続きせず、昭和三十四年正月頃からは定職を失い徒食するに至つたので、同月三十日頃職を求めて上洛し、京都市下京区黒門町の早川家旅館等に止宿していたものであるが、遊興等に日を過しているうちに所持金も残り少なくなつて生活費等に窮した結果、同年二月六日かねて郷里の組合立北部中学校知井分校佐々里分教室の教職にあり被告人も謡を習つたりしたこと等から面識のある田中亘を訪ねて下宿方を依頼したところ断わられたので一旦帰宿したが、田中亘の生活が豊かに見受けられ且つ独り住いであるのを幸い同人に酒をすすめて酔わせた上その隙に乗じて金品を盗み取らうと企て、同月七日午前十一時過ぎ頃一級清酒一升入瓶詰二本を携えて再び京都市左京区丸太町通川端東入る下る東丸太町十二番地の同人方を訪れ、同家入口三畳間の炬燵で暫時雑談の後、同人を誘つて右清酒等を飲み交わすうち同日午後六時頃同人が酩酊して同部屋に横臥し容易に立ち上れないような状態になつたところ、その附近にガスコンロが置いてあるのを見てとつさに金品を盗取しその発覚を防止するためにはむしろ同部屋に故意にガスを放出して右田中亘(当時五十九歳)の過失によるガス中毒死を仮装し同人を殺害して右盗取の目的を達するに如かずと決意し、直ちに右ガスコンロの栓を開放してガスを同部屋に放出するとともにその周囲の襖や硝子戸等を閉めてガスの排出を防止した上、同人方四畳半の間の机及び箪笥の抽斗から同人所有または保管の補聴器一個、風呂敷一枚、訪問着一枚、外衣類四点、郵便貯金通帳(預金三千百円)、協和銀行預金通帳(預金高五千六百八十円)各一通、田中の印鑑一個を、さらに同人方三畳の間の炬燵の上から同じく同人所有または保管の女物腕時計一個、現金約七百円在中の茶色革製二つ折財布一個を盗取し、間もなく同所において同人を右ガス放出にする一酸化炭素中毒により死に致し、以て殺害したものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法第二百四十条後段、第二百三十九条に該当するので、所定刑中無期懲役を選択し、被告人を無期懲役に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書に従い被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上清一郎 橋本盛三郎 渡辺伸平)